まずはじめに 非常に大事な事

全てのレコーディングエンジニアに求められる、ある大きな共通のスキルがあります。


『音が良い事』

そんなの当たり前だと思うでしょ?


じゃあ「音が良い」とは何でしょうか?

はっきりとした答えはありません。

毎日仕事が埋まっているエンジニアは音が良いかといえばそうではありません。
私がアシスタントエンジニアをしていた7年間で「音が良い」と思えたエンジニアは数えるほどしかいませんでした。
日本に「音が良い」と言えるエンジニアが何人いるでしょうか?



■何故「音が良い」事に定義が無いのでしょうか?



「音が良い」という基準は完全に個人の趣味に依存するのです。
オーディオマニアの言う「音が良い」とレコーディングエンジニアが言う「音が良い」は全くの別のものだと考えていいと思います。

料理に例えると(音楽と料理は非常に似ていてこれからもちょくちょくたとえ話で料理を用います)

「音が良い」 と 「美味しい」 は非常に似ています。

・食材をミュージシャンの出す音楽
・機材が料理器具
・録音作業が調理の仕方
・ミックスが味付け
・ジャケットデザインが盛り付けだとします。


一流の食材と調理器具、非常に優秀なスタッフ、マネージャーが揃っていてもシェフが味音痴では美味しい料理は到底期待できません。

そうですシェフを務めるのがエンジニアです。


美味しい料理とは何か?
様々な要素が関係してきます。

よくスタジオで交わされる会話で
「ビートルズの○○みたいな音にして欲しい」
なんていうのがありますが、これは
「有名なレストランのハヤシライスの味にして欲しい」
と言われている様なもので、創造的要素は皆無です。

ビートルズみたいにすればいいのですから。
この場合の「音が良い」とは ビートルズの音 という事と解釈されます。


もう一度「音が良い」とは何か?

これを追求していけないエンジニアは操り人形以下の「ただ機械をいじることができる人」です。


■「音が良い」という感覚は感性です。


私は感性とは生まれ持った天性の部分が多いように感じます。
そして年齢や環境などで常に変化していきます。

ラーメンを例に挙げると、20代前半はとんこつの背脂ばりばりこってりラーメンが旨くてしょうがなかったのに、30歳を前にするとややあっさり目の魚介しょうゆラーメンが旨いと感じてくる人もいれば、インスタントラーメンが一番旨いと一生思う人もいるようなものでしょうか。

その時代の流行りや状況によって基準は常に変化していきます。


■「音が良い」とはバランスです。


椎名林檎が全盛期に流行った歪系サウンドもクラシックなどジャンルが変わればただの失敗作となります。

魚介だしが流行っているからといってカレーに魚を沢山入れたら生臭くて食べられないようなものです。
使うバランス、ポイントを考慮しないと酷い仕上がりになります。

アシスタント時代7年間で私が「音が良くない」と思ったほとんどのエンジニアはプロとしての感性を持ち合わせていないか、耳が死んでいるか、仕事としてワークをこなしているか、機械が好きなだけなのかのいずれかだと思います。



■まとめ



これからエンジニアを目指す人も今スタジオでアシスタントエンジニアをやっている人も鍛えるべきはProToolsのショートカット操作の速さでもなく、機材を運ぶ腕力でもなく、ばらしの速さでもありません。

「音が良い」「良い音」「良い音楽」とは何か?感じる事ができる能力です。

ある種第6感のような言葉には出来ない感覚を覚える瞬間が必ずあるはずです。
仕事中に感動し涙がでる事もあるはずです。

「美味しい料理」を知らないシェフに「感動できる料理」は作れません。
「音が良い」を知らない人間に「良い音楽」は生み出せません。

音楽と音質の研究に対する興味の持続、努力の積み重ね
そういったものが大切だと私は考えます。


すこし 理解してただけたら幸いです。




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1 件のコメント :

  1. 初めまして、私はただの素人PAちょっとかじってるだけのものですが、
    ブログの内容非常にためになります。
    極小のアマチュアばかりの箱ですが、観客がどれだけまえのめりになって、ミュージシャンが最高のパフォーマンスを発揮できる音を目指している私としては非常に同感いたします。
    ありがとうございます。

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